| 2004年度学習会 記録 |
目黒区助役佐々木一男氏のお話 東が丘ホーム嘱託医清水恵一郎氏のお話 フリートーキング
(2005年1月22日 13:30-16:30 上目黒住区センターB1階 レクリエーションルームにて実施)
<お話:目黒区助役 佐々木一男氏>
10月に助役を拝命しました佐々木と申します。定年後は目黒区社会福祉事業団に1年半勤めていました。目黒区あいアイ館施設長を1年勤め、その後社会福祉事業団の事務局長になって半年指定管理者問題に携わりました。
本日は助役という立場で話すのではなく、佐々木個人の立場でお話するということをご理解ください。生の情報をお話したいと思うためです。ただし、意見交換の中でのご発言は助役としてお受けして、区に持ち帰りたいと思います。
本日は、特養、特に福祉を巡る周辺の状況、指定管理者問題、介護保険の改正の状況、目黒区立の特養の実態をお話したいと思います。
●福祉の周辺状況としての財政
三位一体改革に伴って、補助金の大幅カットと自治体への税源委譲が行われます。18年度から税制が改正され、所得税の一部が住民税に振り向けられます。5%、10%、13%の3段階の住民税税率は一律10%になります。目黒区は地方交付税の不交付団体ですが、補助金のカットで3億800万円ほど歳入が減ります。国民健康保険会計1億5400万円余り、養護老人ホームの保護者負担金、在宅福祉事業費などが削られます。しかしその分、譲与税としての補填が4億6100万円という試算ですので、目黒区はそれほど大きな影響は受けないでしょう。
なぜ国はこのような三位一体改革を行うのか。国の予算は一般会計が82兆1800億円ですが、うち44兆円しか税収でまかなえていない。国債が34兆円で、17年度末で538兆円余になります。三位一体はこの借金をどうにかしようとする改革です。ちなみに、都は予算の7割以上が税収です。
目黒区の予算規模は870億円強です。うち区税収入は約40%(354億円)、国からの譲与税・交付金が約10%(85億円)、特別区交付金が約13%(116億円)、国からの補助金が約11%(104億円)。借金が70億円。
目黒区は、これまで比較的税収に恵まれた区と認識されてきました。特別区全体の税収が増えるときは、これまで目黒区は伸び率が他区より高かった。
ところがこの数年異変が起きています。他が伸びているのに、目黒区はマイナス。働いている人の収入は伸びていないという、国の状況を反映しています。大企業の経常利益は上がっているが、売上は伸びても1〜2%。つまり、人件費などのコストを切り詰めて経常利益をあげているので、各家計は疲弊しています。目黒区は勤め人が多い区なので税収に端的に反映しています。国と一緒に区も疲弊していく状態に、区としては危機感をもつべきです。
もう一つの問題は、過去の貯金・積み立てを食いつぶしていることです。平成17年度予算は基金からの繰入で30数億円補填していますが、この基金が底をつく時期に来ている。ちなみに、区の借金は15年度末で約800億円。税収の2年半分くらいです。家計のローンと比較して考えればお分かりと思いますが、ぎりぎりのレベルです。不要不急のものを減らし、職員数も減らす方向です。
●区立特養への指定管理者制度の導入
こうした状況が指定管理者制度や介護保険の見直しに大きくかかわっています。指定管理者制度は、平成15年9月の自治法改正で唐突に出てきた制度で、管理委託に出している区立施設の運営を「委託」から「委任」へ変える制度です。「委託」は委託した方が施設の中の責任を持つ必要がありますが、「委任」の場合は委任を出した方の権限は無くなり、委任を受けた人の権限で運営します。運営主体が変わってくるわけです。例えば住区センターは現在住区住民会議に委託をしていて、利用許可は区長名で出ますが、委任ならば住区住民会議の会長名で出ることになります。特養は福祉制度の関係で少し違っていますが、原則的に管理者の責任が問われるということです。
民間の運営のアイデアを引き出して施設を充実させたいことと、施設運営を効率的に安く上げたいということで、指定管理者制度が出てきました。現在管理委託に出している施設について、直営に戻すか指定管理者にするか、平成18年9月までに決めることになっています。先日基本方針案を議会に報告したところで、サービスの向上と経費の効率的な活用、民間事業者の活用、区は設置者としての責任を果たしていくことなどが盛り込まれています。指定管理者になるならば、平成18年度4月実施ですので、区立特養の運営委託を受けている目黒区社会福祉事業団は必死で検討中です。ちなみに、現在直営の保育園・児童館なども、将来指定管理者制度を導入するかどうかの検討の対象です。
●介護保険の見直し
2月上旬に法改正案が国会に出て、6月末成立が目指されています。まだ検討中ですので、詳細は決まっていません。我々も、国のパンフレットや新聞レベルの情報しかありません。
見直しの基本的視点の1つ目は、制度の持続可能性の検討です。保険財政は逼迫していますが、国の財政も逼迫しているので補填できない中、どう対応するかということです。2つ目は、活力ある超高齢社会の構築を目指す点です。介護の必要が出た人に払う形から、介護を必要としないシステムの構築、予防重視への流れです。3つ目は社会保障の総合化です。現状は、介護保険、年金、医療のバランスがとれていません。病院なども今のしくみでは老健や介護型への転換に積極的になれない状況です。
次のような改正案が出ています。1つ目は予防重視型のシステムへの転換です。マネジメント機能を市町村主体にする、地域包括支援センターを各市町村ごとに設置して、諸相談から介護マネジメントまで引き受ける、介護保険の新予防給付の内容に運動機能の向上・栄養改善・口腔衛生などを入れる、地域支援事業を介護保険の中にきちんと位置付ける、などが挙がっています。
2つ目は施設給付の見直し、いわゆるホテルコストの徴収です。これまでも食費の徴収はありましたが、はっきり居住費と食費を見直しますよ、ということです。これだけは今年の10月からの改正です。
ホテルコストには、低所得者対策も盛り込まれています。現在保険料納付が所得で5段階に分かれていますが、現在の第2段階を2つに分けて、6段階になります。新第2段階は世帯全員住民税非課税かつ本人の年金収入が80万円以下の人、新第3段階は世帯全員が住民税非課税で第2段階該当しない方です。そして、居住費・食費に関して、新第3段階までは、国の定めた基準額より負担額を下げて、差額を保険給付で認めようという話になっています。
ホテルコストの保険上の基準額というのは、個室6万円、準個室5万円、大部屋1万円、食費4万8千円です。ただし、これはあくまでモデル的な基準額で、実は実際の負担額は違ってきます。居住費なら建物の減価償却費と光熱費の合計、食費は原材料費と給食調理の人件費で計算するので、施設ごとに違ってきます。
その上で、今度は所得によって自己負担額を決めます。例えば、国の資料によりますと、第1段階は個室2.5万円、準個室1.5万円、大部屋は無料、食費1万円が負担額です。そして、この額と基準額との差額を保険で補うわけです。高所得者は、全額自己負担になります。目黒区については、法改正はまだですし、具体的に部屋代がどうなるかなどの計算はしておらず、確定的なことは言えない状況です。
3つ目は、新たなサービス体系の確立です。地域特性に合わせたサービスということで、先ほどの地域包括支援センターの設置、地域密着型の新しいサービスなど、いろいろなメニューが提示されているが、これからの検討体制によります。検診事業が老人保健法なのか介護保険の予防サービスになるのかも、介護保険との境目が不明瞭なので、整理が必要です。
4つ目はサービスの質の向上です。施設内の情報開示の義務付け、ケアマネジメントの見直し、人材育成、ヘルパーの研修などです。施設介護については、将来的には介護福祉士に統一する方向です。
5つ目は負担のあり方・制度運営の見直しです。保険料の段階を一つ増やす、市町村の保険者機能の強化、施設への調査権限などがあります。民間施設は都の管轄だったので、区は調査権限をあまりもっていませんでした。それを市区町村の権限にすることが検討されています。
●区立の特養の状況
目黒区内には区立特養が3つ、民間の私立特養が3つあり、計680床。区外の施設に確保しているベッド数をあわせると765床です。入所を待っている待機者は1057名です。以前は申し込み順での入所でしたが、今はポイント制で、介護の必要度が高い人から入所するようになっています。順番に受け付けていたときの平均介護度は3.3、ポイント制になってから3.7。だんだん入所者の介護度が重くなってきて、軽い人は申し込んでも入れない状況になってきています。区外の特養に入った人を区内にという陳情が家族連絡会からありましたが、入所システムが施設毎の順位付けになっている現状では、区内で待っている人になかなか順番が回らないということで難しく、検討課題です。
区立特養は274名の定員で、職員が162名、うち常勤が133名、非常勤が29名です。この職員数の問題が、指定管理者制度を受けるに当たって大きな問題になっています。私は以前、区特養の中目黒ホームの開設にあたって、配置人数をずいぶん検討しました。最初の区立特養ということで、国の職員定数基準に都の加算・区の特別加算を加えて、非常に手厚い配置にしました。入居者2人に対して直接処遇の職員1人です。しかし、数年前に問題になって、2.5人に対して1人という割合に見直しになりました。将来的には3人に対して1人にするという話でした。
3つの区立特養の運営経費は、15年度決算で、3施設合計で15億7800万円です。財源は、介護報酬が10億6200万円で67.3%、自己負担金が1億4900万円で9.4%、区補填額が3億7700万円で23.9%です。区補填額は、介護保険制度の範囲で運営できなかった分で、民間の社会福祉法人並にやれていない分とも言えます。区立の体質を引きずっている面もあるので、だから、指定管理者制度という話になるわけです。民間企業が手を挙げてくれたら、区から補填しないで済むだろうと考えるわけです。
民間特養の方からは、なぜ区立だけ税金で補助してもらうのか、という声があがります。区立を運営している社会福祉事業団も、指定管理者制度を前に、民間にならった経費削減につとめています。しかし、私も現場を見ていますと、人対人のサービスなので、人を減らせばいいというものでもないと考えます。
事業団の事務局長をしていたとき、なぜ民間は介護保険制度内で運営できているのか検討しました。区立は人件費が65%、一種の人件費である業務委託費が19%でほとんどが人件費です。民間は、特に業務委託費が低く抑えられていました。人件費も低めです。区立も人件費の圧縮を検討していて、非常勤の比率をあげたりもしています。コストを抑えるとなるとどうしても経験が少ない非常勤職員が多くなるので、彼らと職員とどううまくチームを組んでいくかが課題になってきて、態勢を検討中です。
区としても、指定管理者制度を導入するのか、するならば、一般の企業を公募するのか、社会福祉事業団を指定管理者に指定するのかなどはこれからです。もちろん区は勝手に決められず、議会にはかる必要があります。事業団は区の肝煎りで作った法人ですので区にも責任がありますので、簡単に職員を失業させるわけにいかないという事情もあります。
駆け足で分かりにくかったかもしれませんが、以上です。
<質疑応答>
Q:母は措置制度のころ入居しました。当時は所得に応じた負担金がありました。何度か改正があって、5万から30万円くらいの間だったと思います。介護保険になってこれが無くなりましたが、その頃から施設は運営が苦しくなったように認識しています。介護保険制度の中で、区の裁量によって受益者負担を導入する事は可能ですか?
先ほどの数字では、入所者一人あたり約600万円くらいかかっている計算になりますが、介護報酬は400万円くらいですので、200万円くらい足が出ている計算になります。改修や設備維持の費用も施設には必要と思われますが。民間はもっと厳しいと思います。
A:原則は介護保険の中での運営になっています。都も社会福祉法人への補助金をほとんど削っています。区は、保険料の減免制度は、国が来年度は打ち切った中でも続ける予算原案ですが、入居者個人へ区が負担金を出すのも、財政状況から難しいです。
Q:施設にはなかなか入れない中、ヘルパーの訪問介護の場合より安くていいので、在宅介護の介護報酬を家族に支払うといいのでは。そうでもしないとどんどん介護保険料を上げていくしか道が無くなります。これからも家族が面倒をみていくのだという位置付けをはっきりするべきだと思います。
A:介護保険制度を決める権限は区にはありませんが、都や国に意見を上げる際に、対応させていただきたいと思います。
Q:母は胃瘻(イロウ)と気管切開をしています。それだけで特養には入所できない、と言われました。今後ぜひ対応していただきたい。
A:現在、原則として医療介護を必要とする人は特養に入れないということになっています。区立は10%くらいだけ受け入れていますが、医師の常駐が無いのが問題です。今は昼間に看護師・保健師が何人かいるだけです。
しかし、今度の介護保険制度の改正では、その辺りを充実させようという話になっています。目黒区としても、区立でしか出来ないことをやるなら、税金を補填しても理解を得られるのではないかということもありますし、ご要望として受け止めて、今後一定比率の医療介護必要者を受け入れられるように検討をしていきたいと考えます。
Q:区立は、ゆくゆくは入所者3人に対して職員1人になるのですか?私の母は民間特養に入っていますが、民間は現在どれくらいになっているのでしょうか?また、夜間はフロアに職員が1人だけで、家族も心配だし、介護士さん自身も不安だとのことです。
A:区立については、当初は3人に対して1人にしていこうという話でしたが、現場を見ていて、できるだけ2.5人に対して1人という水準を守っていこうというのが、現在の事業団の立場です。コストの問題もあるので、例えば常勤2人を非常勤3人に置き換えれば、コストに比して目も届くようになるなど、様々な検討を必死で行っています。民間については多く調査したわけではありませんが、2.6か2.7人に対して1人くらいで、区よりは若干少ないと思います。介護保険内で運営するには、歳入は決められていますから、職員を削らざるを得ない状態です。民間は補助金も補填も無いのでそうなると思います。
その点、区立の今後の運営の仕方や、区立を民間委託するという選択も、考慮すべき部分があります。これは私の個人的な考えですが、区立特養については、区の責任で作ったわけですから、医療型を含め、区にしか出来ないことをやっていくべきだと個人的には考えています。
Q:介護報酬の不正請求が報道されています。区のチェック体制はどうなのですか?事業者の認可は都で、保険の運営は市町村という矛盾がありますが。
A:先ほどの区の保険者機能・権限の強化案と関係します。これまで区には立ち入り調査の権限などが無かったのですが、今後は区の責任が重くなると思います。不正請求の実態は実務に携わっていないので分かりませんが、区もチェックしているはずです。権限が強化されれば、施設のサービス内容や運営状況への勧告もできるようになるかと思います。
<お話:阿部医院 清水恵一郎先生(東が丘ホーム嘱託医)>
【略歴】昭和62年阿部医院開業 平成5年より目黒区医師会理事 平成11年より目黒区医師会副会長、平成11年より東京都医師会地域医療推進委員会副委員長 平成15年地域福祉委員会委員長 平成7年東が丘ホーム開設以来、10年間嘱託医を勤める。
私は基本的には地域の開業医ですが、ご紹介にあったように東が丘ホームの嘱託医をしています。目黒区には3つの区立特養ホームがあります。中目黒ホームのニーズが増えて東が丘・東山ホームができるという流れの中で、我々嘱託医がいろいろな発言をしながらほとんど聞いてもらえずにきて、できないところをどうやって補ってきたか、その辺のお話をしたいと思います。
●特養の嘱託医とは
現在区立の特養では、各嘱託医が20人から30人を受け持つ体勢に今なっています。平成7年に東が丘がオープンしたとき、医師会に嘱託医派遣の依頼がありました。ところが、このとき特養について知っている人は1人だけ、当時の会長のみでした。4人必要ということなので、まずは公募をしましたが、応募はゼロでした。それで、私は地域医療担当理事だったので引き受けることになり、あとは、老人をよく知っている人、近い人、というような決め方をしました。
いまだに思い出すのですが、初めて4人で見学に行ったとき、「これは立派な建物だ、これならよい医療が出来る」と言った医師がいましたが、これが大違いでした。看護師さんがいる、広いフロアで、リハビリの方もいると聞いて、我々のイメージとして、これは医療関連施設ではないかと思ったんですね。しかし、仕事内容の契約をするにあたって、愕然とした、そんな思い出があります。
特養のドクターというのは何なのか?嘱託医は基本的に業務が決まっていて、その業務に対してマルメで支払われます。月だいたい15-16万円くらいで全部の仕事をしなさい、というのが嘱託医です。そして、実は基本的に医療はしないのです。医療をすると医療報酬が発生して、事務と責任が生じます。なので、嘱託医の規定には「病気を診る」という規定は無いんです。これが不思議です。それでも、医師の習性として、問題があったら対応する、という形で今まで続けてきています。
特養の運営規定によると、特養の医師は健康管理をする、となっています。利用者のほとんどは加齢による心身の機能低下に加えて慢性疾患や障害をもっている、その症状や状態は日々変化しており、特養における健康管理は心身の機能を維持するとともに、障害や疾病の悪化を予防し、より快適な生活を送れるように支援する、となっています。ドクターは治療ではなく、支援する、となっています。そのほかは、日常の観察、各セクションとの連携、年一度定期健康診断を行う、健康の評価や早期発見予防に努める、などです。そして、疾患が悪化した場合は、嘱託医が指示をして対応し、協力病院と連携する、となっています。あとは、インフルエンザの予防や歯の治療、ケアについて意見を述べる、などですね。なので、お医者さんが駆けつけて治療をする、という熱っぽさが、この運営規定には無いんですね。
東が丘ホームでは入居時に渡す文書に、「当施設では嘱託内科医4名、精神科1名の指示によって、日常の心身の健康管理を行います。必要に応じて健康保持のための必要な手当・援助を行います」とあります。治療という言葉は一言も出てこない。この辺は、我々も勤めて数ヶ月してようやくわかったことですね。
例えば、ご自分が25人の主治医になったと思って一生懸命治療をした先生がいましたが、判らずに保険請求をしたら、半年後に全部却下されて、逆に50万円請求されたという大変なことがありました。糖尿病の方がいらしたので、インシュリン注射や検査などをしたのですが、全部切られました。
よく読んでみたら、たしかに請求できないことになっているんですね。在宅酸素をやりたいという先生もいらっしゃいましたが、それも請求できない。我々は手足を縛られて特養に行っているというのが事実です。
東が丘は当初からは2人の先生が入れ替わって、また今は、皮膚科の先生がきてくださっていて助かっています。疥癬や褥瘡など、特養は皮膚科がらみのことが結構多いです。水虫で爪が痛んでそこから熱が出ることもあります。それから、東が丘は歯科医がきて、簡単な治療もしてくれています。ホームができるときに、歯科医師会が、我々も参加して頑張りたいと言ってくれたという経緯のようです。
●病院との連携
特養には、複数の協力病院・連携病院が必要です。今5つの大病院と、5つの中小規模病院と連携しています。平均年齢84歳ですから、加齢によって疾患が重なっていきますし、転んで骨折したら寝たきりになってしまう。医療的なことが常に必要です。しかし開設当初分かったのは、病院の先生は我々以上に何も知らないということでした。
開所時にまず隣りの東京国立医療センターにご挨拶に行きましたら、「特養は中で医療をやっているし、高度医療はいらないでしょう?」と体よく断られました。今はその医療連携室の先生とは仲がいいんですけどね。
他に協力をとりつけた病院も、実際に夜中肺炎を起こしたり、頭を打ったりして大きい病院に連れて行って、窓口で「東が丘ホームなんですけど」と言っても、「聞いていません」といわれてしまったこともありました。結局院長先生や上のほうの先生は知っていても、窓口や当直の先生が知らなかったということです。
結局、融通のきく中小規模病院で、当直の部屋に、東が丘ホームから来たら受けてくれ、救急車で他に回さないでくれ、と貼ってもらったりしました。やっと3年目くらいからうまく回り始めました。
●夜間に医療職がいない
それから大きな問題は、100人のご老人がいるところに、夜8時から朝7時くらいまで医療職がいないことです。昼間は看護師さんがいるし、医師も4日間は2時間づつくらいいます。看護婦さんも早出と遅出がありますから、朝7時から夜8時くらいまでは、どうにか医療職がいる。しかし夜間は、介護士さんしかいないので、医療的な処置はできない。医師会からは、看護婦の当直をおいて、きちんと様子をドクターや病院に連絡するようにしたい、それなら連携もできて、救急車で協力病院以外にいってしまうこともないだろう、という提案をしました。すると、都内に医療職の夜の当直を置いている特養はほとんどないから無理だとの話でした。
例外的に、病院付属特養や、多摩の方などにある特養付属診療所なら、夜も密接にやっています。本当は、同じところに病院と特養と老健施設があって、具合によって変わることができれば理想的なのですが。
では、「当直」だと巡回などの義務が発生するので、「宿直」ならどうか?つまり、寝ていてもテレビを見ていても何でもいいから居てくれ、ということです。しかし、束縛することにかわりはないし、お金も出せない、ということでした。
実は、実現しない一番の原因は、やってもいいという看護婦さんがいないことでした。そもそも、夜勤が無い職場を探して、病院から特養にきた人が多いので、多少お金がついても“夜勤”はいやだということです。あのとき区から補助金がついていても、だめだったかもしれませんね。
それで、結局、当直にあたる介護士さん達に、現状を知ってもらうようにしました。一緒にいろいろなことを見てもらって、いざというときに対応できるようにしてもらったわけです。やっていいこと悪いことをお話して、マニュアルを作りました。
●初期に経験した誤解
特に初期はよく分かっている人が少なくて大変でした。我々医師も経験が無い。他の施設を経験してきた看護師さんもいるのですが、その経験は、システムができあがってはじめて役に立つものです。
1年目に事故もありました。今なら訴訟になるかもしれません。今は、ちょっとあざがあるとつねられたんじゃないかとか、ちょっとお尻が赤いとオムツを替えていないんじゃないかとか、言われることが多くなりました。家族の方が、安心しているというよりも、何かされているんじゃないかという気持が強くなっているようで、残念に思います。
そのときの事故というのは、食事の細い方に介護士さんが懸命に食べさせていたら、最後の一口が詰まってしまった。18時半頃に連絡を受けたのですが、私が行くより早く、救急で大病院に連れ込んでしまった。そのときにその病院の部長先生から、特養に医者はいないのか、と言われました。時間契約で言っているということは分かっていらっしゃらない。そして、いまだに響いているのは、「これで三次救急のベッドがいっぱいになってしまった。今18歳の子がバイク事故で脳挫傷を起こしても引き受けられない状態になってしまった」とおっしゃったんです。命に上下はないんじゃないですか、と言いながら、次の日寂しく死亡診断書を書きました。そういった意味で、病院の先生方も、特養を分かっていない、大昔の姥捨山だと思っている感じがしました。2-3年後にはその先生もよくわかってくださって、今はよく協力していただいていますが、そういうところからはじめました。
また、「25人も患者が増えていいね」と他の医師に言われて嫌な思いをした先生もいます。でも、実際は、特養は初診料も再診料もない。高血圧や心臓病の人を診るときの管理料もない。あるのは処方料のみです。一般の方だと一人月1-2万の診療報酬になるところが、2000円くらいです。お金がかかったときも、本人からはとれないので、嘱託の枠の中でどうにかしているわけです。その辺も、ここ5年くらいで、皆さんやっと分かってきてくれました。
●入居者の重度化
その中で、今後どうしていくかということです。一昨年から、特養入居の順番の基準が非常にクリアになりました。平成12年以前は措置という形でした。措置というのは、区の予算で区民を見てあげる、という形です。措置の時代の入居者名簿を見せていただいたことがありますが、男女・年齢・収入の比率が見事にきれいに配分されていました。お金が無い人だけを入れているわけではなく、これならクレームがこないだろうと。
平成12年の介護保険以降は、要介護1以上の方は特養に入っていい、ということになっていました。でも、要介護1の介護報酬は10万くらい、要介護5になれば36万くらいということで、民間特養は介護報酬の多い重度の人を選んで入居させていました。逆に区立は、ある程度介護度が低い人も順番に入れていったので、介護度の高い人も順番が来なければ入れない状況がありました。それが一昨年の8月から、介護度50点、家庭環境50点というポイント制で優先順位がつくようになり、ガラッと変わりました。ニーズが高い人は入れるようになりましたが、割りを食ったのは介護度3くらいの人たちで、実質ずっと入れません。
そして、重度の人が増えると、これまでのばらつきがあったときと同じ人数では、医師も看護婦も介護士も看られない。経管栄養や在宅酸素も増えて、手のかかる方がおおくなります。これに加えて、入居者2人に対して介護職員1人を、2.5人に対して1人や3人に対して1人にするという話になっていくと、破綻が起きます。しょっちゅうトラブルが起きたり、救急車を呼ぶことになるかもしれません。あるものが動くためには、最低限度の物と人と時間とお互いのチームワークが必要です。それをどこまで最小にもっていけるか。それは皆さんがどこまで給付を求めるかということでもあると思うんです。最高のことをやってください、といえば、最高の人と設備が必要です。そうすればお金がかかります。すると、国も都も区もお金がないとしたら、個人負担しかなくなるでしょう。
もっとケアをしてもらいたい人にとって、有料老人ホームというのは一つのあり方ですね。特養入居者の方にもすごい方がいて「24時間ヘルパーを入れてはだめか」という人がいました。で、24時間ヘルパーさんをやとって自宅にいるのではダメなんですか、といったら、おばあちゃんの部屋はもう孫の部屋になってしまった、もう帰れない、と。本当に各事例違っていて、振り回されている感じです。
厚生労働省は施設の機能分担をしました。もし長期療養型の医療施設がきちっとあれば、そこに難病の方も胃瘻(イロウ)の方も在宅酸素の方も入っていただけばいいと思うんです。老人保健施設もあれば、リハビリをしながら在宅に帰れます。しかし、そういうものが満たされていない特養に、今、一番重症の方が来ています。老健施設でも引き取れない方が特養に来るんですね。我々も努力をして勉強していますが、どこまでできるか。嘱託医同士で話すんですが、我々も元気じゃないとやれないね、と。トラブルも多く起こるし、医師にとってもきつい場所だということをご理解いただければと思います。
●嘱託医の役割いろいろ
ちなみに、嘱託医というのは契約上の呼び方です。配置医とは、医療保険上の呼び方です。我々は配置された医者です。看護職員とともに、入所者の健康管理に当たります。それで、ホーム内でのかかりつけ医としての役割を担っています。生活にも目を向けます。ミキサー食が必要かなどの食事指導。入浴の可否や体の保持がうまくいかないから機会浴にしようかというような話。必要がある場合は処方箋の発行などをしています、これが69点、690円ですね。施設の中の予防介護。
それから、もう一つ、これはキーワードです。可能な限り居宅における生活への復帰を目指すためのリハビリテーション、それから介護予防のためのパワーリハビリテーションに意見を述べる、という役割があります。ということは、特養は終の住処ではないということです。ご自宅に帰っていいんだ、ということです。
ご自宅に戻った時にスペースがあって手があれば、それをサポートする医療・訪問看護・入浴サービス、優しい心を持ったヘルパーさんがいれば、在宅でできるんですね。厚生労働省も今在宅を重視しています。厚生労働省が重視する理由は、お金をいっぱい出さないためですね。施設を構えて人をつけるよりも、在宅で医師が往診に行くほうがはるかに安く済みます。それから看取りのときのターミナルケアも、病院では50万円から100万近くかかることもありますが、我々のような往診の場合は保険請求も10万円くらいまでです。しかし「家で看取れない」という家族の状態があるから特養への需要が強いわけです。本当に家で頑張れないのか、そのような家族の状態になっているということ自体どうにかできないものなのか、見直していく必要を感じますね。
そのほか、施設サービス計画を作ったり、ケアカンファレンスに参加したり、自立を促すために日常生活に資するような状況を提供する、ということも嘱託医の仕事です。
本人とご家族の同意を得て、人生の終焉、看取りをどうするか決めておくということも嘱託医の役割です。これは家族ははっきり2つに分かれます。何があっても、具合が悪くなったら病院で高度医療をお願いしますという方もいらっしゃいます。でも、病院や老健を回ってやっとたどりついた特養だから、いまさら入らない点滴や静脈注射をするような病院はもういいよ、とおっしゃる方もいらっしゃいます。
●特養の医療における問題点
まず、施設の運用上・経済上の理由で、医師を週全日配置できていないということがあります。嘱託医は非常勤で当番制で勤務しています。年末年始などはお互いにカバーしています。もし、現在の予算を使って常勤を雇うなら、月70万くらいですが、来てくれるかなあ…その場合は100人について24時間365日責任を持つということですから、とても大変な仕事です。多摩の方にはそういう方もいらっしゃいますが、70-80歳など年輩の先生が名前だけという場合もあります。
それから、家族と全く面会できない入所者がいて、治療上の可否を相談できないときは問題です。よきに計らえ、という感じで、何かあったら経過だけ説明してくれればいいですよ、というような方もいらっしゃいます。本当に寂しい看取りになる方もいます。また、めったに来ない家族ほど、来た時に「なぜこんなところで治療しているのか、入院させるべきではなかったか」と怒ったりすることがあります。
だから、普段いわゆるキーパーソンのご家族と相談をする時は、これはあなたのご意見ですか、それともあなたのご家族全員のご意見ですか、ということを確認します。最期に遠くからやってきた家族の意見で、話が覆ったりすることがありますので。ご家族である程度一つの方向性を出していただきたいです。また、お話は、家族の中のできるだけ同じ方に継続して来ていただきたいです。ご説明すると、次の週違う方が来て、また全部説明することになったりします。それなら、夜7時からでもいいから全員揃っていただくほうがいいです。
また、一般病院と同等レベルの医療を、本人・家族が期待しているという問題があります。我々ドクターでさえも10年前に初めてホームに来た時、立派な病院だなと思ったのですから、特養が病院だと思っている方が多いです。医療を全部やって当たり前だろう、と。そこは入所時にきちんと説明するべきですね。
それから、これは今後の問題でもあります。要介護認定において、身体障害と同様、知的障害や精神障害の方が、その特殊性を考慮されずに特養に入所してくることがあります。痴呆に対するケアはたくさんの症例を見たのでだいぶできるようになりましたが、例えば統合失調の方はまた全然違います。うまくケアできずに夜中に大声を出すことが続いて、他の方が血圧が上がったりしたこともありました。平成20年くらいには、どういう状態でも介護度がついていれば特養で看なさいということになりそうでもあります。
それから例えば経管栄養など特別な医療措置の場合の受入については、限られた医療スタッフの中では一定のキャパシティがあります。先ほど10%というお話がありましたが、どれくらいがキャパシティなのかは分かりません。また3つの区立特養では機能分担をすることもできます。ただし、外からはよく分からないので、あそこでやっていてこちらでやっていないという話が出てくるかもしれません。
施設によって、得意分野や特徴を出してもいいと思うのです。ある程度医療をきちっとできるところ、痴呆を多く受け入れるところ、出入りが多いところなど、キャパシティの問題に対しては知恵を使っていく必要があると思います。例えば老健のように、この施設は3ヶ月です、その間に具合がよくなれば家に帰れるんです、というような施設があってもいいと思います。その間に家族は家の改修をしてもいいかもしれない。そういう選択肢が増えてもいいかと思います。ちなみに、機能分担をして、東が丘を痴呆対応にしないかと、私は提案しました。ノウハウがだいぶ蓄積されているからです。
●看取り・ターミナルケア
それから、こういう話は余りしたくないですが、特養の平均年齢は85〜86歳で、平均寿命に近いので、看取りの問題は避けられません。その中で、これからは本人の意思を皆で理解できるようにする必要があると思います。体は動けないけれど、頭がはっきりしている人には、予め聞いておく。痴呆の場合は、以前どのように話していたか周りに聞いてみる。
自分の医院での診療は普段から患者さんと直接向き合っていろいろな話しをしているわけですが、施設の場合は意思の疎通ができない方が多く、ご家族の方と話すことになります。そのときによほどうまくいろいろな話をしていませんと、急変したときに困ります。入院させるのか、看取りまでホームでするのか、看取りの仕方も自然な老衰にするのか、医療をかけながら看取っていくのか、その辺の話し合いが必要です。
最近、スパゲティ症候群のような延命治療はしたくない、という方が増えています。しかし、延命治療の中止の問題はなかなか難しいです。例えば癌で余命3ヶ月と言われた方が1-2年生きられることがあるように、人の死は予測がつかないことが多い。その中で、患者さんのQOLを高めるようなターミナルケアを、という考えが出てきています。ただし、延命治療の中止はコンセンサスがとても重要です。1名の介護士さんが、こんなことしていいの?と言っただけで、できなくなります。その基には、本人の意思または本人の意思を推定できる家族の意思表示と、法的な裏づけが重要です。安楽死の問題もあります。
また、病院と特養は性格が違います。病院はあくまで病気を治して退院させる事が本来ですが、特養は、終のすみかではないとはいえ、すべてやってきた方が落ち着く場所である可能性もあります。その辺の見直しが必要でしょう。
医学の進歩によって生存年数は伸びました。医療は健常な人に対しては健常な状態を維持するために提供しますが、在宅医療や介護保健施設では、すでに意思を示す事が出来なくてチューブだらけで生かされていて、ご家族は介護地獄の方もいます。しかし、病院では医師はチューブを外すことが出来ない。あとで「殺した」と言われてしまうかもしれないからです。今は何でも訴訟です。10人のうち9人がぜひお願いしますと言ったとしても、1人が「他の人は違うのになぜうちのお母さんだけそうしたんだ?」と言われたらシュンとならざるを得ない。
自立できている状態を「健康寿命」とすると、寝たきりの方の「健康寿命」は残念ながら尽きています。でも、目をパチパチすることで意思を伝えられることもあります。今は終末期のあり方は、本人ではなく家族の意思で決められていることが多いですが、団塊の世代がもっと高齢になったら、「うるさい寝たきり」になるでしょうね(笑)。単に一分でも長く心臓が動くことよりも、患者さんや利用者の尊厳を尊重して全人的な対応をすることが重要だと思います。
「尊厳ある死」といいますが、医者はこれまで必ずしも死に対応してこなかった。治らない病気は自分の範囲ではない、という人もいます。しかし、慢性期の患者さんが悪化して、これ以上の積極的治療が必要かどうか判断することも我々医者の仕事ですし、きちっと説明するのも医者の仕事です。説明を受けて、納得して同意をするのが、皆さんの求めるターミナルケアではないでしょうか。
これからの介護や医療は、自分の意思をハッキリさせながらどうしていくか、そして必ずしも意思どおりにはならないから、その折り合いをどうしていくか、ということだと思います。
さきほど家族介護に扶助を出すという意見がありましたが、これは6年前に自民党の亀井氏も出した案です。私は、公がインフラを整えた上での自助努力とお互い同士の共助、そこに特養などの公の扶助があるという二段構えでいくべきかなと思う。基本は自分の努力かなと今思っていますね。しかし、どこまでやれるかは個人差があるので強要は出来ません。ただ、頑張り過ぎて老老介護になったり、医療にかけるべき人を医療にかけないのもまずい。主治医やケアマネージャーによく相談することです。一番よくないのは、自分だけで考えて自分がやることです。
(司会) ここからは佐々木助役にも入っていただいて、フリートーキングで進めさせていただきます。行政が行っている介護、お医者さんの側から見た介護、私ども家族の側から見た介護、いろいろ違うと思いますので、ご自由にご意見を賜りたいと思います。
●自分の家族は在宅?特養?
(参加者) 現在の状態で、ご自分の配偶者や家族が介護が必要になって、ご自身が介護しなければならなくなったとしたら、お二人は在宅介護をなさりたいですか、今の状態の特養に入れたいですか?
(佐々木) 私の親は区内の特養のショートステイを利用したことがあります。非常に快適だったとは聞いています。自宅で自分達が介護をしてあげられる状況なら、できれば家で面倒を見てあげたいし、親もできれば家に居たいね、とは言っています。しかし、きょうだいも年齢が高くなってきたり、家のつくりで足腰に負担がかかって無理なこともありえます。そうしたら、施設に入れる――入れるという表現もおかしいですね、入ってもらうことになるとも思います。ただ、社会福祉事業団にいたときは、職員同士で、自分が年をとったら生活できるような場にしていかなくてはいけないね、自分がいやだというような施設にはしないようにしよう、と話し合っていました。
(清水) 義父を看取った時は、在宅で診ました。医者として面倒を見て、施設は考えませんでした。母は、パーキンソン病で、最後に特養を利用しました。今の勤め先に自分の家族を入れるとしたら、大歓迎ですね。みなさん、どんなレベルの方もきちんと看てくれていますから。 実父は病院で亡くなりました。腰を痛めて動けなくなって、東京に来ないかと話したのですが、自分のところの近くがいいと言って、近くの小さい病院で亡くなりました。
このように3人看ておりますが、それぞれ置かれた環境が違う、また本人の意思がある。だから、すごくいい施設があれば入る、というものでもないわけです。78歳の独居の方で痩せてきてしまった方がいるのですが、ホームを勧めても、特養も有料ホームもいやだといいます。その方は、毎日1回近所の方がきて、食材を買ってきたりコミュニケーションしているんですね。娘さんも週1回くらいきていろいろセットしていくので、うまくいっているわけです。そうかと思えば、家族が介護放棄でとにかく早くどこかの施設に入れたいという人もいる。
私も色々なホームを見ていますが、入る前に見学したり理念を聞いておく必要がありますね。あとでいろいろ齟齬が出てくると、有料ホームの場合はすでにお金を払っているし、特養も次の順番はなかなか回ってこない。選択肢としては、難しいですけど、悪くはない、という感じですね。
●嘱託医と施設・家族とのコミュニケーション
(参加者) 親が区内の別のホームに入所しています。施設長にこの会のことを話したところ、ぜひこれだけは聞いてきてくれといわれました。嘱託医の決め方はいろいろあると思うのですが、清水先生のような素晴らしい先生がいる東が丘ホームがうらやましい、持ち回りで私どものホームに来て下さる可能性は無いのか、と。いかがでしょうか(笑)?
(清水) 皆さん頑張っていらっしゃるんですよ、私は外で話す機会が多いだけです。ただ、同じところに長くいると、入居者が他人ではなくなってきますね。10年、毎週1回話を聞いていると、自分の父母や祖父母などより密接になります。なので私の回診は、「様子はどう?」などと話を聞いて状態の変化を見るような回診になっています。ただ、それを初めて横から見ていた方に、診療をしていない、ととられたことがあります。聴診器を当てて血圧を測らなければ診断じゃないと。でも、そのような医学的なことは普段コントロールされてクリアされているから、そのような回診なんだ、ということを分かってもらいたいですね。このあたりは個人の問題で、横にはそろえられません。あとは、嘱託医の仕事にどれくらい比重を置くかですね。
もう一つは、ホームの側で、普段から医師とコミュニケーションをはかってもらいたい。夜中の緊急の時だけ電話するのではなくて、普段から情報を知らせてほしい。そのためには、きちんとした婦長さん――今は師長さんと言いますね――がいて、医師との連携をきちんと取る。それから施設長さんにも事務系のことばかりでなく、「あの人の家族はこう言っていますけれどどう思いますか」というような実務的な連携をはかっていただきたいですね。僕の診断は、ホームで婦長さんや介護士さんとすれ違うと、「あの人このところこうよ」といった情報がどんどん入ってくるからできるわけです。他の先生も同じです。だから、ホームのコミュニケーションと雰囲気作りをどうするかということですよね。
医者は、患者さんが困っているときにきちんと対応する事が大事で、斜めから見たり逃げたりしてはいけない。それが一度でもあると、あのこと先生に言っていいのかな、とか、あの先生怖いな、となってしまって、難しくなりますね。違う職種の方と一緒に、1人のスタッフとして同じ立場で動いている、という気持ちが必要だと思います。
実際、僕行けないんですよ。月曜日と火曜日は往診で、水曜日は休みですが普段できない仕事をしています、東京都に行ったり。木曜日がホームに行っていて、金曜日は介護保険です。今、目黒区医師会の介護保険の責任者をやっていますので。在宅の方も看るのは10人までと決めているんです。ですから、今順番待ちをしていただいています。
ホームの雰囲気さえよくなれば、医者がどなたでも同じように機能を発揮できると思います。
(参加者) 家族に対して、このようにしてほしい、というような点がありましたらぜひ聞かせてください。
(清水) 一つは、特養に入ったからといって安心しないでほしいですね。特養に入ってもこの年齢ならば、在宅の方と同じように体調が悪くなる。少しづつの人もガクンと悪くなる人もいますが、それは施設が手を抜いているわけじゃない、ということを理解していただきたいですね。在宅のときに元気だったのに特養に入って悪くなっちゃったっておっしゃる方、結構多いんですよ。それも、1、2日とかではなくて、2年前はあんなに元気だったのに、と言われるとね(笑)。80代後半だったら、在宅でも痴呆が出てきたりします。そういう自然の流れを理解していただきたいです。
もう一つはコミュニケーションです。医師はなかなかつかまりませんから、ぜひ相談員や看護師さんとコミュニケーションをしてください。半年ぶりに来て医者に会いたいというようなときは、こういうことを聞きたいと事前に予定を立てて――アポイントと言いますが――いただきたいと思いますね。あとは、先ほどをお話したように、具合が悪くて説明すると、次の日また違う方がお見えになって、また説明するということがありますが、一本化していただければと思いますね。
また、希望があれば、どんどん言っていただいたらいいです。できることとできないことがありますが、できることはやりますし、できないことは努力します。人員の問題などで難しければ説明します。
それから、私は25人の方を診させていただいていますが、相手の皆さんは医師1人だけを見ている。具合が悪いと分かっている人は優先して診るわけです。ただ、隣りのお元気な方には「こんにちは」だけだと、「私のことは診てくれない」となってしまう。そこはご家族には、「お母さんは元気だからだよ」くらいのフォローをしていただけると大変助かりますね。
●特養でのリハビリ
(参加者) 個人に対するリハビリプログラムはどなたが決めていらっしゃるのでしょうか。施設ではOT(作業療法士)・PT(理学療法士)などのスタッフの配置はどうなっているのでしょうか。
(清水) 人員配置はよくわからないのですが、特別な車椅子の処方箋を書いたりはします。筋力低下があって車椅子から落ちてしまったり、後遺症でいつも右に曲がってしまったり、床ずれができかかっていたりという方にです。また、リハビリをどこまでやっていいですか、ということをよく聞かれます。血圧・脈拍がこれくらいなら、というようなことを言います。
それから、痴呆の方のリハビリは無理なのではないか、ということを最近考えます。理由は、自分が「よくなりたい」という意思をもてないからです。リハビリは、治ったらこうしたい、という意欲がないと難しい。リハビリは結構痛いので、自分が痛めつけられていると思ってしまうんです。また、一度やったのを忘れて、やり過ぎてしまう人もいます。ですから、どこの筋力を強化するといった形のリハビリではなく、衣服や靴の着脱を見守るなどの、生活リハビリを考えていくほうがいいかなと思っています。
(佐々木) 特養へは理学療法士・作業療法士を1名づつきちんと配置して、リハビリや装具に対応しているはずです。ただ、私は特養ホームへの勤務実態はありませんので、言えるのは、人員配置はされている、ということです。
(司会) 施設の職員の方がいらしているので、一言現状を教えていただければと思います。
(東が丘ホーム亀山相談員) 私のホームでは理学療法士・作業療法士1名づつの配置になっています。100名が対象なのでマンツーマンは難しいのですが、全員のADL・痴呆・移動などの状況は把握して、ケース会議や居室担当者の会議で評価を報告しています。本人が積極的にリハビリプログラムを望む場合には、個別にプログラムを組むケースもあります。本人の意思を確認できない方で、拘縮予防の軽いリハビリを実施している方もいらっしゃいます。必ず全員に実施していることは、車椅子での座位・姿勢の保持(ポジショニング)の確認、車椅子やポータブルへの移動の評価などです。それから食事介助の方法、嚥下の状況、食事の時の姿勢の評価、骨折をした後の方の入浴の介助方法の評価などもします。生活一般に関する評価と、それをいかに介護士につなげるかという業務になります。
●嘱託医とターミナルケア
(司会) 清水先生のリクエストで、この中で特養で看取りをした方で、ご経験やちょっとした不満などがあれば伺いたい、とのことです。
(参加者) どの程度4人の先生方の間で話し合ったり、他の特養の先生と話されるのか伺いたく思いました。先生によって対応の仕方に違いがあるのかな、との印象はありました。私は2日間泊まらせてもらって、最期も立ち会えたのでよかったのですが、担当の先生は看護婦に「何時だった?」と聞いただけで、脈を確認したり瞳孔をちょっと見てくれたりということもありませんでした。他の先生方はどうなのでしょうか?
(清水) 例えば学会でいなかったりするときは、同じフロアの担当者でカバーしあっていますが、一つ原則があります。他の先生が担当している患者さんには、かかりつけ医と患者さんの関係と同じで、責任体制としてはノータッチなんです。具合が悪ければ診ないわけではないのですが。
それから、入所時に医師を選べないのか、または後から変えられないのか、と言われることがありますが、基本は順番で担当しています。ただ、自分の得意分野の疾患を持つ方の場合に入れ変わる場合はあります。
そして看取りのことですが、先ほど申し上げたようにろうそくの炎が消える様に見ていてわかることではありませんので、たとえ昼間でも他の患者さんを置いてくるわけにもいかず、ある程度区切りがつかないと駆けつけられないこともあります。ただ、呼吸停止・心停止・瞳孔散大を死の3兆候と言いますが、本来はそういったことの確認はすべきだと思います。今はある程度看護師さんが時間を見ていますが、医療法的に非常に厳密にいうと、在宅と違って、実際には半日前に亡くなっていても、医者が診断した時点を亡くなった時刻とする、というのもあります。ホームに帰ってから、みんなで確認したいと思います。
ただ、それまでよく診てさしあげていて関係も良かったのに、最期のほんの1分や半日くらいのことで、10数年来の関係が崩れてしまうことは非常に悲しいので、私は最期は何があってもかけつけるようにはしています。
3つの特養における嘱託医の会というのがあります。年に1度くらい会合を開いているのですが、びっくりすることが多いですね。そっちはそんなになってんの、と。そこでも話すのですが、医療をやろうとしても、医師だけでやれないことも多いわけです。でも人手が足りない。いい例が、この人に点滴をやりたい、といったら、点滴の管理にその都度先生来てくれますか?と介護士さんに言われました。ホームと病院・在宅の違いがあって、半分手を縛られながら医療をやっているようなもので、やりにくいところがあります。
(参加者) 母は清水先生に診ていただいて、潮が引いていくような大変静かな死を迎えさせてもらいました。無知な家族だったのですが、事前にターミナルケアのことをご説明いただいたり、密なコミュニケーションをとっていただきました。看取っていただいた時に、「こんなに静かに亡くなられたのは本当に幸せだ」と先生に言っていただいて胸が一杯で、今でもホームに足を向けて寝られないと思っています。
私は皆さんに同じようなターミナルケアをしていただければと思ってきましたが、現状ではもう無理なのではないかと認識しています。介護保険下でいろいろなことが切り詰められる中で、これだけ職員が知恵を働かせて、大変な努力をしてケアを守ってきたという実績を行政は認識していただきたい。本当に票にも何にもならない中の努力を、ぜひ佐々木さんに知って帰っていただきたいと思いました。職員の声はなかなか上には届かず、潰されそうになった方もたくさんいらっしゃいます、家族はそれを見てきました。その声も聞いていただければと思います。
家族も入れてしまって安心するのではなく、国全体のことにも目を向ける必要があるでしょうし、日常の小さなことで文句を言ったり、あの介護士さんがいい・悪い、あの先生がいい・悪いというレベルではなくて、もう少し勉強して、金銭的なことでも、システム作りに知恵を出し合うことも重要な時期ではないかと思います。先ほど出た応能負担についても、施設に対してもそうだし、嘱託医に対しても何か考えられないかと思っています。
日頃の信頼感を築き上げるという、ターミナルに入るまでのプロセスが重要です。すべての職員が安心して、福祉の思いで入られた方を潰すことのないような行政指導をお願いしたいと思います。
●夜間に看護師の配置を
(参加者) 何とか区の財政を看護師さんに振り向けてほしいです。この時代、病院の人員整理で辞められたベテランの看護師さんもいらっしゃるかもしれません。区からも十分な人件費を払っていただいて、どうにか看護師さんの増員や夜勤を実現してほしいです。視察などに税金をかけるかわりに、嘱託医にこれ以上の負担をかけない方向に持っていってほしいと思います。
(佐々木) 「はい、分かりました」、で帰れれば一番嬉しいのですが…。お話したように財政も厳しいわけですが、事業団でも夜間のサービス体制をどうするかは、指定管理者のこともあって、真剣に議論しています。加えて区民が真剣に議論してくれれば、税金投入ができるようになると思います。半年間事業団の事務局長をやっていたときに、現場を見ると、人数の少ない夜間の体制をどうするかが一番の問題でした。議論を見守ることに加え、声としても大きくなれば税金投入の後押しになると思います。意見としてはしっかり受け止めさせていただきます。
(清水) 今のお話は10年前に終わってしまったかと思っていましたが、また言っていただけると嬉しいです。実は、介護保険だけでなく、医療保険もこの3年間で大きく変わる可能性があります。つまり、特養の医療も変わる可能性があります。そうすると、例えば夜間に訪問看護ステーションから看護師を派遣してもらう契約をすることが可能になるかもしれません。10年前に検討した時は、措置制度の時代は包括的な支払いだったので無理でした。
この3年間でいろいろなことが一気に変わります。混合診療は2年間延期になりましたが、今後保険が利く医療のレベルが下がって自己負担があがる可能性もあります。今介護の話をしていますが、今十分充実しているはずの医療がこれから崩れるかもしれませんので、皆さんよーく見ていて、発言をしてください。もしかしたら、今がベストかもしれない。
そこで厚生労働省が言っているのは、介護予防も含めて「元気でいれば医療にかからなくて済む」という話です。そしてピンピンコロリならば亡くなる時も医療費がかからない――こんな理論なんですね。どうも弱者の切り捨てに見えます。ぜひアンテナを張っていて、発言してください。
(司会) どうもありがとうございました。時間が押しているので、これで質問を終わらせていただきます。
(家族連絡会) 家族連絡会でも、これ以上特養のサービスが下がったら困る、限界のラインだという声が強くなってきています。佐々木助役は実態をよく理解してくださっていますが、議会で傍聴をしたりすると、状況を全く分かっていない議員もいます。ぜひ今日の声を持ち帰っていただきたいと思います。
私は実は清水先生の話を3回聞きました。最初はまったく嘱託医の制度を分かっておりませんでしたが、だんだん分かってきました。これからもぜひサポートをお願いしたいと存じます。本当に今日はありがとうございました。
| HOME |
Copyright (c) 2004-2005 目黒区特別養護老人ホーム家族連絡会